Broken/not broken  ― 
broken beat にとって退屈は発明の母
( 2001 年 7 月・ www.sfbg.com の記事より)

Amanda Nowinski 著
Kay Suzuki 訳

 

『ハウスミュージック』はクラブシーンにとって便利な音楽だ。
お馴染みの古き良き時代のソリッドな四つ打ちのビートに、繰り返されるゴスペル風やソウルフルな
女性ボーカルの甘酸っぱいメロディの端々。。。ハウスミュージックはあなたをインテリジェントに興奮させ、
その音楽を口ずさませてしまうのだ。ダンスフロアで、車で、ヘッドホンを通して・・・・。

バン! ・・・・・・さぁ、あなたの家で現実にもどってみよう。

まだ『それ』はあなたがまだ行った事が無いようなハイな状態に連れて行ってくれるだろうか?

 

『ブロークンビート』は西ロンドンから発せられた新しい音楽で、ダンスミュージックの『退屈さ』に対する
解毒剤と言えば分かりやすいかもしれない。問題はブロークンビートと呼ばれるジャンルは実は『ジャンル』
という訳ではまったく無いという事だ

一番結びつけられる音楽的要素はインストゥルメンタルのジャズだが、特に決まった型やビートの構造がある
わけでもないし、決まったベースの音量、メロディやボーカルで分かりやすいフックがあるわけでもない。
ビートは単純な四つ打ちでもなければ純粋なドラムブレイクスを使う訳でもなく、分離され、
飛び跳ねたようなサウンドでとても落ち着いて座っていられるような音ではない。ダウンテンポのものでも
思わず頭が揺られてしまう。

そのオープンで無制限な姿勢の音楽の特徴は、特筆すべき音楽的クオリティの高さがあるという事だろう

I.G. Culture のアフロリズム、 Seiji のフリージャズのようなダークなエレクトリックサウンド、 Nubian Mind
のつんざくようなテクノサウンド、レアグルーブやソウルの影響がある Afronaught ( Orin Walters )
のサウンドなど、それぞれのアーティストが独特の個性を保っている。そしてこの音楽を先導しているのは
主に IG Culture やレーベル・ Reinforced の Dego ( 4 Hero ) などの成熟したアーティスト達である。
彼等は今までに聞いてきて愛してきた音楽をランダムに反映させているのだ。 ブロークンビートは
ポスト・ハウスであり、ポスト・テクノであり、ポスト・アンビエントであり、ポスト・ジャングルでもあり、
またそれら全てをひっくるめたものでもある。 あえてこれを定義するならその『姿勢』ではないだろうか。

 

ブロークンビートのシーンを引率する集団、 Bugz in the attic は西ロンドンでハウスからドラムンベース
まで全てをプロデュースをしてきた Orin Walters ( Afronaught ) によって結成された。
若手メンバーで 24 歳( 2001 年当時)の Paul "Seiji" Dolby (またの名を Opaque 、 Homecookin' )
の最新作を聴いているみると『混合』という言葉が浮かんでくる。

彼が西ロンドンの自宅から電話越しに語る
「西ロンドン系の音はとにかくフュージョン(融合)なんだ。別に俺達は一つの型にこだわってる訳じゃない。
心配なのはみんながブロークンビートってタグが付いてる音楽を聴いて『そっか、これがブロークンビート
って音なんだ』ってシーンを判断しちゃう事なんだ。俺達は同じ音楽を作ってる訳じゃないし、たとえ同じ
西ロンドンのプロデューサーでもみんな様々な違うスタイルがあってやってる事が違うんだ。

俺のはエレクトリックで、 DOMU はテクニカルでドラムンベースみたいにハードだったり、 Restless Soul
( Phil Asher ) みたいにソウルフルだったりするしさ。ホント、幅広く色んなスタイルがあるんだよ。」

 

ブロークンビートのムーブメントは IG Culture と Dego が始めたスタイルが中心になっている。
Dego は Seiji がドラムンベースを作り始めた時のレーベル 『 Rainforced 』 のオーナーで、彼の
もう一つのレーベル 『 2000Black 』 から最近リリースしたコンピレーション『 Good Good Compilation 』
はこの手の音を紹介するに最適だったのではないだろうか。
奇しくもちょうどこの頃、アメリカ・デトロイト出身のテクノプロデューサー・ Carl Craig の有するレーベル
『 Planet E 』 から彼自身のフリージャズとテクノが融合したプロジェクト 『 Innerzone Orchestra 』
の輸入版が発売され、ブロークンビートスタイルがアメリカとリンクした。

広いシーンで考えると、西ロンドンのプロデューサー達のやっている事は、ドイツの Truby Trio,
Jazzanova, Beanfield, Fauna Flash
や他の 『 Compost 』 レーベルのアーティスト達や、日本の
Kyoto Jazz Massive 、イタリアの Volcov らが始めたエレクトリックなジャズフュージョンの
やっている事とまったく違うわけではない。

「ブロークンビートってのは広い意味での Future Jazz の一種だよね。でもアシッドジャズと誤解しちゃいかん」
と語るのは『 XLR8R 』というエレクトリックミュージック雑誌の編集人、 Tomas Palermo 。彼は地元
(この記事でアメリカで書かれている)でレーベル 『 Ubiquity Records 』 の Jonah Sharp や Andrew Jervis
らと共にクラブ・ Emoto でブロークンビートを毎月プレイしている。
サンフランシスコ生まれの 『 Ubiquity Records 』 は Future Jazz を何年も支持しているレーベルで、
Beatless (Alex Attias と Paul Martin) 等の西ロンドンのアーティストから、 P'Taah と Wamdue Project
をやっている Chris Brann などのアメリカ人も参加している。 Chris Brann のアルバム 『 De'Compressed 』
は Opaque moniker 名義の Seiji と Nubian Minds のブロークンビートリミックスも収録し、 Sun Ra や
Rahsaan Roland Kirk 等の往年の前衛ジャズにも迫るスタイルでビートをひねってカットアップされており、
昔のアシッドジャズのようなダンスフロアに優しい音ではなく、ほとんどの音はシンプルなファンクやジャズの
フレーズをヒップホップのブレイクスのテンポに落とし込んである。

 

西ロンドンシーンの強力な 『核』 は、共感するアーティストの密なネットワークと、それを支えるレーベル、
『 people 』 や Bugz in the attic の 『 Bitasweet 』 ・ IG Culture の 『 Main Squeeze 』
『 Laws of Motion 』、そしてクラブナイトでもある 『 CO-OP 』 で発展してきた。
「 Bugz in the attic の連中は色んな人とやりとりしてるよ」 こう語るのは 111 Minna St でブロークンビート
とフューチャージャズのイベント 『 No Categories 』 を毎月主催する 『 Ubiquity 』 の Jervis だ。
「みんながお互いの生活を支え合ってるんだ。確かにそういった輪の中でやりとりするのは効果あるよね」
彼等は様々な音楽的バックグラウンドを限りなく融合していって (トランスやメインストリームのゴミハウス
は別だが)、それでいてどのスタイルにも留まっていない。
Jervis が加える 「つまんなくなったり、飽和したりして死んでいく代わりにメインのプロデューサー達
は更に幅広いスタイルに発展させつづけてるよ。 Afronaught のアルバムは IG Culture のアルバム
とは違うサウンドだし、 Beatless のアルバムは Neon Phusion のアルバムとはまったく違った
サウンドなんだ」

ブロークンビートはロンドンから生まれた最も新しいジャズの動きでありながら、
メディアの注目はもう一つのロンドン発のジャンル 『2ステップ』 に独占した。

2ステップと違ってブロークンビートは特別なガイドもなく、結果的に一つの音楽スタイルをコマーシャルな
モノに発展させる狂信的な「ジャンルマーケティングの手法」にアピールする事は無かった。これは
ヘソ曲がりなブロークンビート - フューチャージャズ・プロデューサーの意識的なメインストリーム・
ダンスミュージックへの反抗なのか、もしくは同じく西ロンドンのプロデューサーで2ステップの大物
『 MJ Cole 』 がメディアからのスポットライトを独占したやり方への批判なのか。

2ステップからの影響も受けていると語る Seiji はその問いに "No" と応えた。
「ブロークンビートは他のシーンからの影響ってのは特に無いんだ。何に対してもレスポンス
はしてないよ。誰も椅子に座って考えて『よし、やろう!俺達でシーンを作ろう!』
なんてやってないんだ。ただ、純粋に何か違う、新しい音楽をやろうとしてる奴等が居て、
他にも同じ様にやってる奴が居るのに気が付いて、たまたま一緒になって小さいコミュニティ
を作る事が出来たんだ。どんどん広がって行ってはいるけどね」


それでも Seiji はブロークンビートがまだまだ稼げる音楽ではないと認める。ヨーロッパのどの
メジャー雑誌も IG Culture や Dego のアルバムカバーを出して大々的に取り上げた事はない。
このシーンのどのアーティストも広告代理店みたいなものは持ってなさそうだし、CD店で彼等の
音楽を見つけるのはある意味チャレンジである。 要するにこの音楽は疎外された位置にあって、
コマーシャルマーケットから拒絶されているのだ。

そして、ブラックミュージックでありながら白人の MJ Cole や Artful Dodger が活躍している、
(メディアの大好きな)2ステップと違って、メディアによる西ロンドンのおおざっぱな認識は IG Culture
と Dego という黒人だ。よって、ブロークンビートやフューチャージャズは多国籍な性格を持っていても、
黒人音楽としてのアイデンティティーを保っているわけだ。

『 2000 Black 』レーベルはもとより、 Nubian Minds や Afronaught というネーミングはその音楽が
影響されているルーツが明らかなのは間違いない。

チェロ弾きだった Seiji は( Afronaught のアルバムでもチェロで参加)、スターダムや金を求めて、
こじゃれたシャンペンを飲むようなタイプ(一般的な2ステップのイメージがこれ)というよりは
『スタジオおたく』だ。確かにアブストラクトなビートが魅惑的な現金を生むのはちょっと想像出来ないだろう。

彼が曲作りについて話す時に頻繁に使われる単語が『 science =科学 』
彼のテクニカルなドラムンベースを聞くと納得する。Seiji 曰く「ドラムンベースは生なグルーヴを生むっ
ていうより、テクノロジーを駆使して音の科学を追求するって感じだよ。当時ドラムンベースが
エキサイティングだった時はとにかくいかにブレイクビートをこねくり回してどれだけ違うモノにできるか、
っていう 『 ビートサイエンス=ビートの化学反応 』 が全てだったね。」


彼が現在音楽を作り続けているのも同じ科学的アプローチだ。
ただもう彼はジャンルという枠に囚われる罠には落ちない。
「俺のプログラミングのスタイルはドラムンベースから来てるよ。なにか科学的な事をやろうとしている。
ハウスビートの四つ打ちってずっと聴いてるとつまらなくなるんだ。それに誰にでも出来る決まった
ビートを作るってのも飽きるんだよね。だから俺達はちょっと違う事をやろうとしたんだよ。
要するに俺達は退屈してたんだ

 

そして退屈さはジャンルの壁を打ち破るほどの必然的なシーンの発展をさせた。

ダンスミュージック産業の狂信的なまでのカテゴリー分けに対する執拗は、反逆者である
ブロークンビートシーンのアーティストに大々的なマーケティングプランを与えず、商業的なイベントでの
ライブも与えず、おそらく広告代理店も、そして間違いなく大きなレコード契約も与えないのだ。
普通の人が簡単にアクセス出来るような手段もないまま、アーティスト達は批評家達に敵対するような
リスクを負っているのだ。

ブロークンビートは共感出来る人のあいだの小さなネットワークかもしれない。それでも
<ジャンルや決まりきった型からの解放>というメッセージは発信されて、
間違いなく広がって行くだろう。


<English>

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